火の巻 · Livro do Fogo 五輪書 · Capítulo 4 de 6
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火の巻 · Livro do Fogo

一 序

二刀一流の兵法戦の事を火に思ひとつて戦勝負の事を火の巻として此巻に書顕す也先世間の人毎に兵法の利をちひさく思ひなして或は指先にて手くび五寸三寸の利を知り或は扇を取てひぢより先の先後の勝を弁へ又はしないなどにてわつかのはやき利を覚え手をきかせ習ひ足をきかせ習ひ少の利の早き所を専とする事也我兵法に於て数度の勝負に一命をかけて打合生死二ツの理をわけ刀の道をおぼえ敵の打太刀の強弱を知り刀のはむねの道を弁へ敵を打果所の鍛錬を得るにちひさき事弱き事思ひよらざる所也殊に六具かためてなどか利にちひさき事思ひ出る事に非ず更に命をばかりの打合に於て一人して五人十人共戦ひ其勝道を慥に知る事我道の兵法也然るによつて一人して十人に勝ち千人を以て万人に勝つ道理何の差別有んや能々吟味有べし

去ながら常々の稽古の時千人万人を集め此道し習ふ事成事に非ず独太刀を取ても其敵々の智略をはかり敵の強弱手だてを知り兵法の智徳を以て万人に勝所を極め此道の達者となり我兵法の直道世界に於て誰か得ん又何れか極めんと慥に思ひ取つて朝鍛夕錬して磨きおほせて後独自由を得自ら奇特を得通力不思議有所是兵として法をおこのふ息也

二 一 場の次第と云事

場の位を見分る所場に於て日をおふと云事有日をうしろになして構ふる也若所により日をうしろにする事ならざる時は右のわきへ日をなす様にすべし座敷にてもあかりをうしろ右脇となす事同前也うしろの場つまらざる様に左の場をくつろげ右の脇の場を詰めて構度事也夜にても敵の見ゆる所にては火をうしろにおひあかりを右脇にする事同前と心得て構ふべきもの也敵を見おろすと云て少しも高き所に構ふる様に心得べし座敷にては上座を高き所と思ふべし扨戦になりて敵を追回す事我左の方へ追回す心難所を敵のうしろにさせ何れにても難所へ追懸る事肝要也

難所は敵に場を見せずと云ひて敵に顔をふらせず油断なくせめ詰る心也座敷にても敷居 鴨居 戸 障子 縁など又柱などの方へ追詰るにも場を見せずと云事同前也何れも敵を追懸る方足場のわるき所又は脇にかまひの有所何れも場の徳を用ゐて場の勝を得ると云ふ心専にして能々吟味し鍛錬有るべきもの也

三 一 三ツの 先 と云事

三ツの先一ツは我方より敵へかかるせんけんの先と云ふ也又一ツは敵より我方へかかる時の先是はたいの先と云也又一ツは我もかかり敵もかかりあふ時の先体々の先と云是三ツの先也何れの戦ひ始にも此三ツの先より外はなし先の次第を以て勝事を得るものなれば先と云事兵法の第一也此先の子細様々は有りと云へ共其時の理を先とし敵の心を見我兵法の智恵を以て勝事なればこまやかに書分る事に非ず

第一懸の先我かからんと思ふ時静かにして居俄かにはやくかかる先うへを強くはやくして底を残す心の先又我心をいかにも強くして足は常の足に少はやく敵のわきへよると早くもみたつる先又心をはなつて初中後同じ事に敵をひしぐ心にて底まで強き心にて勝是何れも懸の先也

第二待の先敵我方へかかりくる時少しもかまはずよわき様に見せて敵近くなつてづんとつよくはなれて飛付様に見せて敵のたるみを見て直に強く勝事是一ツの先又敵かかりくる時我も猶強くなつて出る時敵のかかる拍子のかはる間をうけ其儘勝を得る事是待の先の理也

第三体々の先敵はやくかかるには我静に強くかかり敵近くなつてづんと思ひきる身にして敵のゆとりの見ゆる時直に強く勝又敵静かにかかる時我身うきやかに少はやくかかりて敵近くなりてひともみもみ敵の色に随て強く勝事是体々の先也

此儀濃に云分がたし此書付を以て大形工夫有べし此三ツの先時に随ひ理に随ひいつにても我方よりかかる事には非るものなれ共同じくは我方よりかかりて敵をまはしたき事也何れも先の事兵法の智力を以て必ず勝事を得る心能々鍛錬有べし

四 一 枕をおさふると云事

枕をおさふるとはかしらをあげさせずと云ふ心也兵法勝負の道に限つて人に我身をまはされてあとにつく事悪しいかにもして敵を自由にまはし度事也然るによつて敵も左様に思ひ我も其心あれ共人のする事をうけがはすしては叶がたく兵法に敵の打所をとめつく所をおさへくむ所をもぎはなしなどする事也枕をおさふると云ふは我実の道を得て敵にかかりあふ時敵何事にても思ふきざしを敵のせぬ内に見知りて敵の打と云うつのうの字のかしらをおさへて後をさせざる心枕をおさふる心也たとへば敵のかかると云かの字をおさへとぶと云との字のかしらをおさへきると云きの字のかしらをおさふる皆以て同じ心也敵我にわざをなす事につけて役にたたざる事を敵にまかせ役にたつ事をばおさへて敵にさせぬ様にする所兵法の専也是も敵のする事をおさへんおさへんとする心後手也先我は何事にても道にまかせてわざをなす内に敵もわざをせんと思ふかしらをおさへて何事も役に立せず敵をこなす所是兵法の達者鍛錬の故也枕をおさふる事能々吟味有べきなり

五 一 と を こ すと云事

渡を越すと云はたとへば海を渡るに瀬戸と云所も有又は四十里五十里とも長き海を越所を渡と云也人間の世を渡るにも一代の内にはとをこすと云所多かるべし船路にして其との所を知り船の位を知り日なみを知りて友船は出さず共其時の位をうけ或はひらきの風にたより或は追風をも受若し風替りても二里三里はろかぢをもつても港に着を心得て船を乗とり渡を越所也其心を得て人の世を渡るにも一大事にかけて渡を越と思ふ心有べし

兵法戦のうちにもとをこす事肝要也敵の位を受我身の達者を覚え其理を以てとをこす事よき船頭の海路を越と同じ渡を越ては亦心安き所也とをこすと云事敵によわみをつけ我身も先になりて大形はや勝所也大小の兵法の上にもとをこすと云心肝要也能々吟味有べし

六 一 けいきを知ると云事

景気を見ると云は大分の兵法にして敵の栄え衰へを知り相手の人数の心を知り其場の位を受け敵の景気を能見受け我人数何としかけ此兵法の理にて慥に勝と云所をのみこみて先の位を知て戦所也又一分の兵法も敵のながれを弁へ相手の人柄を見うけ人の強き弱き所を見付け敵の気色にちがふ事をしかけ敵のめりかりを知り其間の拍子を能知りて先をしかくる所肝要也物事の景気と云事は我智力強ければ必見ゆる所也兵法自由の身に成ては敵の心を能計て勝道多かるべき事也工夫有べし

七 一 けんをふむと云事

剣をふむと云心は兵法に専ら用る儀也先大きなる兵法にしては弓鉄砲に於ても敵我方へ打かけ何事にてもしかくる時敵の弓鉄砲にてもはなちかけて其あとにかかるによつて又弓をつかひ又鉄砲に薬をこみてかかりこむ時こみ入かたし弓鉄砲にても敵のはなつ内にはやくかかる心也早くかかれば矢もつがひがたし鉄砲も打得ざる心也物毎を敵のしかくると其儘其利を受て敵のする事を踏付て勝心也

又一分の兵法も敵の打出す太刀のあとへ打てばとたんとたんとなりてはかゆかざる所也敵の打出す太刀は足にてふみ付る心にして打出す所をうち二度目を敵の打得ざる様にすべし踏と云は足には限るべからず身にてもふみ心にてもふみ勿論太刀にてもふみ付て二度目を敵に能させざる様に心得べし是則物毎の先の心也敵と一度にといひてゆきあたる心にてはなし其儘あとに付心也能々吟味有べし

八 一 くづれを知ると云事

崩と云事は物毎ある物也其家のくづるる身のくづるる敵のくづるる事も時のあたりて拍子ちがひになりてくづるる所也大分の兵法にしても敵のくづるる拍子を得て其間をぬかさぬ様に追たつる事肝要也崩るる所のいきをぬかしてはたてかへす所有べし又一分の兵法にも戦内に敵の拍子ちがひてくづれ目の付もの也其ほどを油断すれば又たちかへり新敷なりてはかゆかざる所也其くづれめに付敵のかほたてなほさざる様に慥に追かくる所肝要也

追かくるは直に強き心也敵たてかへさざる様に打はなすもの也打はなすと云事能々分別有べしはなれざればしだるき心有工夫すべきもの也

九 一 敵になると云事

敵になると云は我身を敵になり替て思ふべきと云所也世の中を見るにぬすみなどして家の内へ取籠る様なるものをも敵を強く思なすもの也敵になりて思へば世の中の人を皆相手としにげこみてせんかたなき心也取籠るものは雉子也打果しに入る人は鷹也能々工夫有べし大きなる兵法にしても敵といへば強く思ひて大事にかくるもの也

よき人数をもち兵法の道理を能知り敵に勝と云所を能うけては気遣すべき道に非ず一分の兵法も敵になりて思ふべし兵法能心得て道理強く其道達者なるものに於ては必ずまくると思ふ所也能々吟味すべし

一〇 一 四手 をはなすと云事

四手をはなすとは敵も我も同じ心にはりあふ心になつては戦のはかゆかざるもの也はりあふ心になると思はば其儘心をすてて別の利にて勝事を知る也大分の兵法にしても四手の心にあれば果敢ゆかずひとのそんずる事也はやく心をすてて敵の思はざる利にて勝事専也亦一分の兵法にても四手になると思はば其儘心をかへて敵の位を得て各別替りたる利を以て勝を弁ふる事肝要也能々分別すべし

一一 一 かげをうごかすと云事

陰を動かすと云は敵の心の見えわかぬ時の事也大分の兵法にしても何共敵の位の見わけざる時は我かたより強くしかくる様に見せて敵の手だてを見るもの也手だてを見ては各別の利にて勝事やすき所也又一分の兵法にしても敵うしろに太刀を構へ脇に構へたる様なる時はふつと打んとすれば敵思ふ心を太刀に顕す物也顕れ知るるに於ては其儘利をうけて慥に勝を知るべきもの也油断すれば拍子はぬくるもの也能々吟味有べし

一二 一 かげをおさふると云事

影をおさふると云は敵のかたよりしかくる心の見えたる時の事也大分の兵法にしては敵のわざをせんとする所をおさふると云ひて我方より其利をおさふる所を敵に強く見すれば強きにおされて敵の心替る事也我も心をちがへて空なる心より先をしかけて勝所也一分の兵法にしても敵のおこる強き気ざしを利の拍子を以てやめさせやみたる拍子に我は勝利をうけて先をしかくるもの也能々工夫有べし

一三 一 うつらかすと云事

移らかすと云は物毎に有もの也或はねむりなども移り或はあくびなどのうつるもの也時のうつるも有大分の兵法にして敵うはきにしてことをいそぐ心の見ゆる時は少しも夫にかまはざる様にしていかにもゆるりとなりて見すれば敵も我事に受てきざしたるむ物なり其うつりたると思ふ時我方より空の心にしてはやく強くしかけて勝利を得るもの也一分の兵法にしても我身も心もゆるりとして敵のたるみの間をうけて強く早く先にしかけて勝所専也

亦よわすると云て是に似たる事有一ツはたいくつの心一ツはうかつく心一ツはよわくなる心能々工夫有べし

一四 一 むかつかすると云事

むかつかすると云は物毎に有一ツにはきはどき心二ツにはむりなる心三ツには思はざる心能吟味有べし

大分の兵法にしてむかつかする事肝要也敵の思はざる所へいきどふしくしかけて敵の心のきはまらざる内に我利を以て先をしかけて勝事肝要也又一分の兵法にしてもはじめゆるりと見せて俄に強くかかり敵の心のめりかり働くにしたがひいきをぬかさず其儘利をうけて勝を弁ふる事肝要なり能々吟味有べき也

一五 一 おびやかすと云事

おびゆると云事物毎に有事也思ひよらぬ事におびゆる心也大分の兵法にしても敵をおびやかす事眼前の事に非ず或は物の声にてもおびやかし或は小を大にしておびやかし又かたわきより不斗おびやかす事是おびゆる所也其おびゆる拍子を得て其利を以て勝べし一分の兵法にしても身を以ておびやかし太刀を以ておびやかし声を以ておびやかし敵の心になき事をしかけておびゆる所の利を受て其儘勝を得る事肝要也能々吟味有べし

一六 一 まぶ るると云事

まぶるると云は敵我手近くなつて互に強くはりあひて果敢ゆかざると見れば其儘敵と一ツにまぶれあひてまぶれあひたる其内に利を以て勝事肝要也大分小分の兵法にも敵我方わけては互に心はりあひて勝のつかざる時は其儘敵にまぶれて互にわけなくなる様にして其内の徳を得其内の勝を知りて強く勝事専也能々吟味有べし

一七 一 かどにさはると云事

角にさはると云は物事強き物をおすに其儘直におしこみがたきもの也大分の兵法にしても敵の人数を見てはり出強き所の角にあたりて其利を得べし角のめるに随ひ惣もみなめる心有其める内にもかどかどに心得て勝利を受る事肝要也一分の兵法にしても敵の体のかどにいたみをつけ其体少しもよわくなりくづるる体になりては勝事やすきもの也此事能々吟味して勝所を弁ふる事専也

一八 一 うろめかすと云事

うろめかすと云は敵に慥なる心をもたせざるやうにする所也大分の兵法にしても戦の場に於て敵の心を計り我兵法の智力を以て敵の心をそここことなしとのかうのと思はせおそしはやしと思はせ敵うろめく心になる拍子を得て慥に勝所を弁ふる事也又一分の兵法にして我時にあたりて色々のわざをしかけ或は打と見せ或はつくと見せ又は入込と思はせ敵のうろめく気ざしを得て自由に勝所是戦の専也能々吟味有べし

一九 一 三ツの声と云事

三ツの声とは初中後の声と云て三ツにかけ分る事也所により声をかくると云事専也声はいきほひなるによつて火事などにもかけ風波にもかけ声は勢力を見するもの也大分の兵法にしても戦より初めにかくる声はいか程もかさをかけて声をかけ又戦ふ間の声は調子をひきて底より出る声にてかかり勝て後あとに大きに強くかくる是三ツの声也

又一分の兵法にしても敵をうごかさん為打と見せて頭よりゑいと声をかけ声の跡より太刀を打出すもの也亦敵を打て跡に声をかくる事勝を知らする声也是を先後の声と云太刀と一度に大きに声をかくる事なし若戦の内にかくるは拍子にのる声ひきてかくるなり能々吟味有べし

二〇 一 まぎるると云事

まぎるると云は大分の戦にしては人数を互にたて合敵の強き時まぎるると云て敵の一方へかかり敵くづるるを見ばすてて又強き方へかかる大形つづらをりにかかる心也一分の兵法にして敵を大勢よするも此心専也方々へかからず方々にげば又強き方へかかり敵の拍子を得てよき拍子に左右とつづらをりの心におもひて敵の色を見合てかかるもの也其敵の位を得打とほるに於ては少も引心なく強くかつ利也一分入身の時も敵の強きには其心ありまぎるると云事一足も引事をしらずまぎれゆくと云心能々分別すべし

二一 一 ひしぐと云事

ひしぐと云は縦ば敵をよわく見なして我つよめになつてひしぐと云ふ心専也大分の兵法にしても敵に人数のくらゐを見こなし又は大勢なり共敵うろめきてよわみつく所なればひしぐと云てかしらよりかさをかけておつぴしぐ心なりひしぐ事よわければもてかへす事有手の内ににぎつてひしぐ心能々分別すべし

又一分の兵法の時も我手にふそくのもの又は敵の拍子ちがひすさりめになる時少しもいきをくれず目を見合ざる様になし真直にひしぎつくる事肝要也少しもおきたてさせぬ所第一也能々吟味有べし

二二 一 さんかいのかは りと云事

山海の心と云は敵我戦の内に同じ事を度々する事悪き所也同じ事二度は是非に及ばず三度するに非ず敵にわざをしかくるに一度にて用ひずば今一ツもせきかけて其利におよばず各別替りたる事をふつとしかけそれにもはかゆかずば又各別の事をしかくべし然るによつて敵山と思はば海としかけ海と思はば山としかくる心兵法の道なり能々吟味有べき事也

二三 一 そこをぬくと云事

底を抜と云は敵と戦ふに其道の利を以て上は勝と見ゆれ共心をたやさざるによつて上にてはまけ下の心はまけぬ事有其儀に於ては我俄に替りたる心になつて敵の心をたやし底よりまくる心に敵のなる所を見る事専也此底を抜く事太刀にても抜又身にてもぬき心にてもぬく所有一道には弁ふべからず底より崩れたるは我心残すに及ばずさなき時は残す心也残す心あれば敵くづれがたき事也大分小分の兵法にしても底をぬく所能々鍛錬有べし

二四 一 あらたになると云事

新たになるとは敵我戦ふ時もつるる心になつてはかゆかざる時我気を振捨て物毎をあたらしくはじむる心に思ひて其拍子を受て勝を弁ふる所なり新になる事は何時も敵と我きしむ心になると思はば其儘心を替て各別の利を以て勝べき也大分の兵法に於ても新たになると云所弁ふる事肝要也兵法の智力にては忽ち見ゆる所也能々吟味有べし

二五 一 そとうごしゆと云事

鼠頭午(牛)首と云ふは敵と戦のうちに互にこまかなる所を思ひ合てもつるる心になる時兵法の道を常に鼠頭午(牛)首鼠頭午(牛)首と思ひていかにもこまかなる内に俄に大きなる心にして大小にかはる事兵法一ツの心だて也平生人の心も鼠頭午(牛)首と思ふべき所武士の肝心也兵法大分小分にしても此心をはなるべからず此事能々吟味有るべきもの也

二六 一 しやうそつをしると云事

将卒を知るとはいづれも戦に及ぶ時わが思ふ道に至てはたえず此法を行ひ兵法の智力を得て我敵たるものをば皆我卒なりと思ひとつてなしたき様になすべしと心得敵を自由にまはさんと思ふ所我は将也敵は卒也工夫有べし

二七 一 つかをはなすと云事

束をはなすと云に色々心有事也無刀にて勝心有又太刀にてかたざる心有さまざま心のゆく所書付るに非ず能々鍛錬すべし

二八 一 いはほ の身と云事

岩尾の身と云事兵法を得道して忽ち岩尾の如くに成て万事あたらざる所うごかざる所

口伝

二九 後書

右書付る所一流剣術の場にしてたえず思ひよる事のみ云顕し置もの也今初て此利を書記物なればあとさきと書まぎるる心有てこまやかに云わけがたし乍㆑去此道を学ぶべき人の為には心しるしに成るべきもの也我若年より以来兵法の道に心をかけて剣術一通りの事にも手をからし身をからし色々様々の心に成り他の流々をも尋見るに或は口にていひかこつけ或は手にてこまかなるわざをし人目によき様に見すると云ても一ツも実の心に有べからず勿論かやうの事しならひても身をきかせならひ心をきかせつくる事と思へ共皆是道のやまひとなりて後々までもうせがたくして兵法の直道世にくちて道のすたる基也剣術実の道になつて敵と戦ひ勝事此法と聊替事有べからず我兵法の智力を得て直なる所を行ふに於ては勝事うたがひ有べからざるもの也正保二年五月十二日新免武蔵寺尾孫之丞殿寛文七年二月五日寺尾夢世勝延花押山本源介殿

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