風の巻 · Livro do Vento 五輪書 · Capítulo 5 de 6
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風の巻 · Livro do Vento

一 兵法 他流の道を知る事

他の兵法の流々を書付風の巻として此巻に顕す所也他流の道を知らずしては我一流の道慥に弁へがたく他の兵法を尋見るに大きなる太刀をとつて強き事を専らにして其わざをなすながれ有或は小太刀と云ひて短き太刀を以て道を勤るながれ有或は太刀かず多くくみ太刀の構を以ておもてと云ひ奥として道をつたふる流も有是皆実の道に非る事此巻の奥に慥に書顕し善悪理非を知らする也我一流の道理各別の儀也他の流芸にわたつて身すぎの為にして色をかざり花をさかせうりものにこしらへたるによつて実の道に非る事歟亦世の中の兵法剣術斗にちひさく見たてて太刀をふり習ひ身をきかせて手のかるる所を以て勝事を弁へたるものか何れも慥なる道に非ず他流の不足成所一々此書に書顕す也能々吟味して二刀一流の利を弁ふべきもの也

二 一 他流に大きなる太刀を持事

他に大きなる太刀をこのむ流有我兵法よりして是をよわき流と見立る也其故は他の兵法いかさまにも人に勝と云理を知らずして太刀の長きを徳として敵相遠き所より勝度と思ふによつて長き太刀このむ心有べし世の中にいふ一寸手まさりとて兵法知らぬものの沙汰也然るによつて兵法の利なくして長きを以て遠く勝んとするそれは心のよわき故なるによつてよわき兵法と見立る也

若敵相近く組合ほどの時は太刀長き程打事もきかず太刀のもとをりすくなく太刀をににして小脇差手振の人におとるもの也長き太刀好む身にしては其云わけは有ものなれ共夫は其身ひとりの理也世の中の実の道より見る時は道理なき事也長き太刀もたずして短き太刀にては必まくべき事歟或は其場によりうへしたわきなどのつまりたる所或は脇差斗の座にても長きを好む心兵法のうたがひとてあしき心也

人により少力なるものも有其身により長かたなさす事ならざる身も有昔より大は小をかなふると云へばむざと長きをきらふには非ず長きとかたよる心を嫌ふ儀也大分の兵法にして長太刀は大人数也短きは小人数也小人数と大人数にて合戦はなるまじきものか小人数にて大人数に勝たる例多し我一流に於て左やうにかたつくせまき心嫌ふ事也能々吟味有べし

三 一 他流に於てつよみの太刀と云事

太刀につよき太刀よわき太刀と云事は有べからずつよき心にてふる太刀はあらきもの也あらき斗にては勝がたし又つよき太刀と云て人をきる時にしてむりにつよくきらんとすればきれざる心也ためしものなどにきる心にもつよくきらんとする事あしし誰に於てもかたきときりあふによわくきらんつよくきらんと思ふものなし唯人をきりころさんと思ふ時はつよき心もあらず勿論よわき心にもあらず敵のしぬる程と思ふ儀也若はつよみの太刀にて人の太刀つよくはればはりあまりて必あしき心也人の太刀に強くあたれば我太刀もおれくだくる所也然るによつてつよみの太刀などど云事なき事也

大分の兵法にしてもつよき人数を持合戦に於てつよくかたんと思へば敵もつよき人を持戦もつよくせんと思ふそれはいづれも同じ事也物毎に勝と云事道理なくしては勝事あたはず我道に於ては少も無理なる事を思はず兵法の智力を以て如何様にも勝所を得る心也能々工夫有べし

四 一 他流に短き太刀を用 ゐ る事

短き太刀斗にて勝んと思ふ所実の道に非ず昔より太刀かたなと云て長きと短きと云ふ事を顕し置也世の中に強力なる者は大きなる太刀をもかろく振なればむりに短きを好む所にあらず其故は長きを用て槍長太刀をも持物也短き太刀を以て人の振太刀の透間をきらん飛いらんつかまんなどと思ふ心かたつきて悪し

又すきまをねらふ所万事後手に見えもつると云心有て嫌事也若は短かき物にて敵へ入くまんとらんとする事大敵の中にて役に立ざる心也短きにてし得たるものは大勢をもきりはらはん自由に飛ばんくるはんと思ふ共皆うけ太刀と云物になりてとりまぎるる心有て慥成道にてはなき事也同くは我身は強く直にして人を追回し人に飛はねさせ人のうろめく様にしかけて慥に勝所を専とする道也大分の兵法に於ても其理有同じくは人数かさを以て敵を矢場にしほし即時にせめつぶす心兵法の専也

世の中人の物をしならふ事へいぜいもうけつかはしつぬけつくぐりつしならへば心道にひかされて人にまはさるる心有兵法の道直にただしき所なれば正理を以て人を追回し人をしたがふる心肝要也能く吟味有べし

五 一 他流に太刀かず多き事

太刀の数余多にして人に伝ふる事道をうり物にしたてて太刀数多くしりたるを初心のものに深く思はせん為成べし兵法に嫌ふ心也其故は人をきる事色々あると思ふ所まよふ心也世の中に於て人をきる事替る道なし知る者も知らざる者も女童子も打たたききると云道は多くなき所也若かはりてはつくぞなぐぞと云外はなし先きる所の道なれば数の多かるべき子細にあらず

され共場により道に随ひ上わきなどのつまりたる所などいはば太刀のつかへざるやうに持道なれば五方とて五ツの数は有べきもの也夫より外にとりつけて手をねぢ身をひねりて飛ひらき人をきる事実の道に非ず人をきるにねぢてきられずひねりてきられず飛てきられずひらいてきれずかつて役に立ざる事也我兵法に於ては身なりも心も直にして敵をひずませゆがませて敵の心のねぢひねる所を勝事肝心也能々吟味有べし

六 一 他 流 に太刀の構を 用 る事

太刀の構へを専らにする所ひが事也世の中に構のあらん事は敵のなき時の事なるべし其子細は昔よりの例今の世の法などとして法例をたつる事は勝負の道には有べからず其あいてのあしき様にたくむ事也物毎に構と云事はゆるがぬ所を用る心也或は城をかまふる或は陣をかまふるなどは人にしかけられてもつよくうごかぬ心是常の儀也兵法勝負の道に於ては何事も先手先手と心懸る事也かまふると云心は先手を待心也能々工夫有べし

兵法勝負の道人の構をうごかせ敵の心になき事をしかけ或は敵をうろめかせ或はむかつかせ又はおびやかし敵のまぎるる所の拍子の利をうけて勝事なれば構と云後手の心を嫌ふ也然る故に我道に有構無構といひて構は有りて構は無きと云所也

大分の兵法にも敵の人数の多少を覚え其戦場の所を受我人数の位を知り其徳を得て人数をたて戦をはじむる事それ合戦の専也人に先をしかけられたる事と我人にしかくる時は一倍もかはる心也太刀を能構へ敵の太刀を能受能はるとおぼゆるは槍長太刀を持てさくにふりたると同じ敵を打時は又さく木をぬきて槍長太刀につかふ程の心也能々可㆑有㆓吟味㆒事也

七 一 他流に 目付 と云事

目付と云ひて其流により敵の太刀に目を付るも有又は手に目を付る流も有或は顔に目を付或は足などに目を付るも有其ごとくとりわけて目を付んとしてはまぎるる心有て兵法のやまひといふ物になるなり其子細は鞠をける人は鞠に能目を付ね共びんずりをけおひまりをしながしてもけまはりてもける事物になるると云所あれば慥に目に見るに及ばず又はうかなどするもののわざにも其道になれては戸びらを鼻にたて刀を幾腰もたまなどにとる事是皆慥に目付とはなけれ共不㆑断手にふれぬればおのづから見ゆる所也兵法の道に於ても其敵其敵としなれ人の心の軽重を覚え道を行得ては太刀の遠近遅速迄も皆見ゆる儀也

兵法の目付は大形其人の心に付たる眼也大分の兵法に至ても其敵の人数の位に付たる眼也観見二ツの見やう観の目つよくして敵の心を見其場の位を見大きに目を付て其戦のけいきを見其折ふしの強弱を見てまさしく勝事を得る事専也大小兵法に於てちひさく目を付る事なし前にもしるす如く濃にちひさく目を付るによつて大きなる事をとりわすれまよふ心出きて慥なる勝をぬかすもの也此利能々吟味して鍛錬有べき也

八 一 他流に足つかひ有事

足のふみ様に浮足飛足はぬる足ふみつむる足からす足などと云て色々さつそくをふむ事有是皆我兵法より見ては不足に思ふ所也浮足を嫌ふ事其故は戦になりては必ず足の浮たがるものなればいかにも慥にふむ道也又飛足を好まざる事飛足はとぶおこり有て飛びていつく心有幾飛も飛と云理のなきによつて飛足悪し亦はぬる足はぬると云心にてはかの行かざるもの也踏つむる足待の足とて殊に嫌ふ事也其外からす足色々のさつそくなど有或は沼ふけ或は山 川 石原 細道にても敵ときり合ものなれば所により飛はぬる事もならずさつそくのふまれざる所有もの也

我兵法に於て足に替る事なし常の道をあゆむが如し敵の拍子に随ひいそぐ時静なる時の身の位を得てたらずあまらず足のしどろになき様に有べき也大分の兵法にしても足をはこぶ事肝要也其故は敵の心を知ずむざとはやくかかれば拍子ちがひ勝がたきもの也又足ふみ静にては敵うろめきありてくづるると云所を見つけずして勝事をぬかしてはやく勝負つけ得ざるもの也うろめきくづるる場を見わけて少も敵をくつろがせざる様に勝事肝要也能々鍛錬有べし

九 一 他の 兵法 にはやきを 用 る事

兵法のはやきと云所実の道に非ずはやきと云事は物毎の拍子の間にあはざるによつてはやきおそきと云ふ心也其道上手になりてははやく見えざるもの也

縦人にはや道と云て四十里五十里行ものも有是も朝より晩迄はやくはしるにではなし道のふかんなるものは一日はしる様なれ共はかゆかざるもの也乱舞の道に上手の謡ふうたひに下手のつけてうたへば後るる心有ていそがしきもの也又鼓太鼓に老松をうつに静なる位なれ共下手は是にもおくれさきたつ心有高砂は急なる位なれ共はやきと云事悪しはやきはこけると云て間に合ず勿論おそきも悪し是も上手のする事は緩々と見えて間のぬけざる所也諸事しつけたるもののする事はいそがしく見えざるもの也

此たとへを以て道の理を知るべし殊に兵法の道に於てはやきと云事悪し其子細は是も所によりて沼ふけなどにて身足共に早くゆきがたし太刀はいよいよはやくきる事なし早くきらんとすれば扇小刀の様にはあらでちやくときれば少もきれざるもの也能々分別すべし

大分の兵法にしてもはやくいそぐ心悪し枕をおさふると云心にては少もおそき事はなき事也人のむざとはやき事などにはそむくと云て静になり人につかざる所肝要也此心の工夫鍛錬有べき事也

一〇 一 他流に奥表と云事

兵法の事に於て何れを表といひ何れを奥と云ん芸によりことにふれて極意秘伝などいひて奥口あれ共敵と打合時の理に於ては表にて戦ひ奥をもつてきると云事に非ず我兵法のおしへ様は始て道を学ぶ人には其わざのなりよき所をさせならはせ合点の早くゆく理を先に教へ心の及がたき事をば其人の心をほどくる所を見分て次第次第に深き所の理を後に教る心也され共大形は其事に対したる事様を覚えさするによつて奥口と云所なき事也されば世の中に山の奥を尋るに猶奥へ行んと思へば又口に出るもの也何事の道に於ても奥の出合所も有口を出してよき事も有此戦の理に於て何をかかくし何をか顕さん

然によつて我道を伝るに誓紙罰文など云事を好まず此道を学ぶ人の智力をうかがひ直なる道を教へ兵法の五道六道の悪しき所をすてさせおのづから武士の法の実の道に入うたがひなき心になす事我兵法の教への道也能々鍛錬有べし

一一 後書

右他流の兵法を九ケ条として風の巻に有増書付る所一々流々口より奥に至るまでさだかに書顕すべき事なれ共わざと何流の何の大事共名を書しるさず其故は一流一流の見たて其道其道のいひわけ人により心に任せてそれぞれの存分有ものなれば同じ流にも少々の替るものなれば後々までの為にながれ筋共書のせず他流の大体九ツに云分て世の中の道人の直なる道理より見せば長さにかたつき短きを理にし強き弱きもかたつきあらきこまかなると云事も皆へんなる道なれば他流の口奥と顕はさず共皆人の知るべき儀也

我一流に於て太刀に奥口なし構に極りなし唯心を以て其徳を弁ふる事是兵法の肝心也正保二年五月十二目新免武蔵寺尾孫之丞殿寛文七年二月五日寺尾夢世勝延花押山本源介殿

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